交通バリアフリー基本構想(テキスト版)第1章
第1章 交通バリアフリー基本構想とは
1 背景と目的
(1)背景
バリアフリー化の意義
日本は平成22年に超高齢社会(注1)に突入し、今後さらなる高齢化が進展すると見込まれており、高齢者の自立と社会参加による、健全で活力ある社会の実現が求められています。また、障がいのある人が障がいのない人と同等に生活し活動する「ノーマライゼーション」の理念の下、障がいの有無に関わらず誰もが相互に人格と個性を尊重し支えあう「共生社会」の実現が求められています。このような社会の実現のためには、高齢者、障がい者等が自立した日常生活や社会生活を営むことができるよう、バリアフリー化などにより高齢者や障がい者等が容易に移動できる環境を整備することは、大きな意義を持つものです。
(注1)高齢化率(全人口に対する65歳以上の人口比)が7%を超えると高齢化社会、14%を超えると高齢社会、21%を超えると超高齢社会と呼ぶ。
バリアフリーに関する法制定の経緯
このことから国は、不特定多数の人々や、主に高齢者や身体障がい者などが使う建築物のバリアフリー化を進めるため、「高齢者、障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(以下、「ハートビル法」という)を平成6年に制定しました。
また、駅・鉄道車両・バスなどの公共交通機関と、駅などの旅客施設周辺の歩行空間のバリアフリー化を図るため、「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(以下、「交通バリアフリー法」という)が平成12年に制定されました。
この2つの法律の下、施設のバリアフリー化が図られてきましたが、施設ごとに個別にバリアフリー化が進められたため、連続的なバリアフリー化が図られていない、ソフト面での対策が不十分などの課題がありました。
このようなことから、ハートビル法と交通バリアフリー法を合わせる形で、高齢者・障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(以下、「バリアフリー法」という)が平成18年に制定され、対象者を従来の身体障がい者だけでなく、すべての障がい者とすることとされました。また、対象物の拡大、重点整備地区の要件の拡大のほか、当事者(高齢者、障がい者等)の参画、ソフト施策の充実についての規定が新たに盛り込まれました。
市の現状
当市においても高齢化が進行しており、平成22年の国勢調査の結果によれば、人口の約3割が65歳以上となっているほか、障がい者人口も少しずつではありますが、増加傾向にあります。また全国でも有数の観光地であり国内外から多数の来訪者を迎える当市においては、多様化する観光ニーズに対応することも大きな課題となって
います。
当市における取組としては、バリアフリー法や三重県ユニバーサルデザインのまちづくり推進条例に基づき、道路や公園などの都市基盤施設や市営住宅などのユニバーサルデザイン化、バリアフリー化を進めてきました。また当市の中心であり、来訪者にとっての玄関口である伊勢市駅およびその周辺においては、平成23年に実施された駅舎におけるエレベーター設置に対して補助を行い、平成25年には駅前にバリアフリー対応の公衆トイレなどの整備を行いました。しかし市全体においては、依然として高齢者や障がい者等の施設利用や移動において課題となる箇所が数多く存在しています。
平成28年5月には伊勢志摩サミットの開催により、当市を含む伊勢志摩地域の情報が国内外に広く発信されました。また平成33年度開催の第76回国民体育大会(三重とこわか国体)や第21回全国障害者スポーツ大会(三重とこわか大会)など、大きなイベントが予定されていることから、今後も国内外から多数かつ多様な来訪者が当市を訪れることが想定されています。
(2)基本構想策定の目的
本基本構想は、バリアフリー法第25条に基づき、当市における効率的・効果的なバリアフリー化を進め、高齢者や障がい者等の移動や施設の利用における利便性・安全性・快適性を向上させることにより、高齢者や障がい者等の社会参加や、国内外からの来訪者との交流を促進することを目的として策定します。
2 バリアフリー法および基本構想について
(1)バリアフリー法の目的と概要
バリアフリー法は、高齢者や身体障がい者・知的障がい者・精神障がい者・発達障がい者を含む、すべての障がい者、妊産婦、けが人などの移動や施設利用の利便性、安全性を向上することを目的としています。公共交通機関、建築物、都市公園、路外駐車場、歩行空間を新設する際、移動円滑化基準に適合させることを義務づけることによって各施設のバリアフリー化を推進するとともに、基本構想制度を活用することによって重点的かつ一体的なバリアフリー化を推進しようとするものです。また、できるだけ多くの人が利用可能であるように、製品、建物、空間をデザインする「ユニバーサルデザイン」の考え方を踏まえた規定が盛り込まれています。
(2)基本構想とは
交通バリアフリー基本構想は、重点整備地区として設定した地区において、建築物や道路などのバリアフリー化を重点的かつ一体的に推進するために、市町村が策定するものです。
バリアフリー法においては、新設施設等については移動円滑化基準への適合義務が課せられる仕組みとなっています。このため、基本構想において特定事業を位置づけることにより、基準適合義務が課せられない既存の施設等についてのバリアフリー化を進めることが期待されます。
基本構想において定める主な事項
- 重点整備地区
鉄道駅の周辺地区や、高齢者・障がい者が利用する生活関連施設(駅、福祉施設、店舗など)が集まった地区など、基本構想に基づいてバリアフリー化を進めていくエリア。駅を含まない地区や、駅から徒歩圏外の地区の指定も可能。 - 生活関連施設
鉄道駅などの旅客施設、官公庁施設、福祉施設、病院、文化施設、商業施設、公園など、相当数の高齢者、障がい者等が利用する施設 - 生活関連経路
生活関連施設相互の経路(それらの間の移動は通常徒歩で行われること) - 特定事業その他移動円滑化のための事業
生活関連施設、生活関連経路などのバリアフリー化を具体化するもの
図:重点整備地区のイメージ図
(3)特定事業の内容
バリアフリー法において、特定事業の内容は以下のように定められています。
- 公共交通特定事業
- 特定旅客施設(※1)におけるバリアフリー設備(エレベーター、エスカレーター等)の整備、これに伴う特定旅客施設の構造の変更、特定車両(軌道車両、乗合バス)のバリアフリー化(低床化など)
- 道路特定事業
- 道路におけるバリアフリー化のための施設・工作物(歩道、道路用エレベーター、通行経路の案内標識等)の設置
- バリアフリー化のために必要な道路構造の改良(歩道の拡幅、路面構造の改善等)
- 路外駐車場特定事業
- 特定路外駐車場におけるバリアフリー化のために必要な施設(車いす使用者が円滑に利用できる駐車施設等)の整備
- 都市公園特定事業
- 都市公園におけるバリアフリー化のために必要な特定公園施設の整備
- 建築物特定事業
- 特別特定建築物(※2)におけるバリアフリー化のために必要な建築物特定施設の整備
- 全部又は一部が生活関連経路である特定建築物における生活関連経路のバリアフリー化のために必要な建築物特定施設の整備
- 交通安全特定事業
- バリアフリー化のために必要な信号機、道路標識または道路標示の設置(高齢者、障がい者等による道路の横断の安全を確保するための機能を付加した信号機、歩行者用道路であることを表示する道路標識、横断歩道であることを表示する道路標示の設置等)
- バリアフリー化のために必要な生活関連経路を構成する道路における違法駐車行為の防止(違法駐車行為に係る車両の取締りの強化、違法駐車行為の防止についての広報活動及び啓発活動等)
(※1)特定旅客施設とは
旅客施設のうち、利用者が相当数であること、または相当数であると見込まれるもので、次の3つの要件のいずれかに該当するものを言います。
- 一日当たりの平均利用者数が5,000人以上であること
- 旅客施設を利用する高齢者または障がい者の人数が、一定数以上いること
(計算式が国土交通省令・内閣府令・総務省令により定められている。) - 当該旅客施設について移動等円滑化のための事業を優先的に実施する必要性が特に高いと認められるものであること
(※2)特別特定建築物とは
不特定かつ多数のものが利用し、または主として高齢者、障がい者等が利用する特定建築物であって、移動等円滑化が特に必要なものとして、以下のものが政令により定められています。
- 特別支援学校
- 病院または診療所
- 劇場、観覧場、映画館または演芸場
- 集会所または公会堂
- 展示場
- 百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗
- ホテルまたは旅館
- 保健所、税務署その他不特定かつ多数のものが利用する官公署
- 老人ホーム、福祉ホームその他これらに類するもの(主として高齢者、障害者等が利用するものに限る。)
- 老人福祉センター、児童厚生施設、身体障害者福祉センターその他これらに類するもの
- 体育館(一般公共の用に供されるものに限る。)、水泳場(一般公共の用に供されるものに限る。)もしくはボーリング場または遊技場
- 博物館、美術館または図書館
- 公衆浴場
- 飲食店
- 理髪店、クリーニング取次店、質屋、貸衣装屋、銀行その他これらに類するサービス業を営む店舗
- 車両の停車場または船舶もしくは航空機の発着場を構成する建物で旅客の乗降または待合いの用に供するもの
- 自動車の停留または駐車のための施設(一般公共の用に供されるものに限る。)
- 公衆便所
- 公共用歩廊
3 バリアフリー「基本方針」
バリアフリー法に基づく「移動等円滑化の促進に関する基本方針」は、バリアフリーの意義や目標に関する事項や基本構想の指針となるべき事項について、主務大臣(国家公安委員会・総務大臣・国土交通大臣)が定めるものです。平成18年に制定され、平成23年に改正されました。
基本方針の概要
- バリアフリー化の意義および目標に関する事項
- バリアフリー化のために施設設置管理者が講ずべき措置に関する基本事項
- 基本構想の指針となるべき事項
- バリアフリー化促進のための施策に関する基本的事項等
バリアフリーの目標値(抜粋)
旅客施設(鉄軌道駅)
- 目標(平成32年度末)
- 一日平均利用者数3,000人以上の鉄軌道駅について原則100%(地域の要請及び支援の下、構造等の制約条件を踏まえ可能な限り整備)
- 上記以外の鉄軌道駅についても、地域の実情に鑑み、可能な限りバリアフリー化
- 整備内容
- 段差解消(エレベーターまたはスロープ設置)
- 転落防止設備の整備(ホームドア、点状ブロック等)など
旅客施設(バスターミナル)
- 目標(平成32年度末)
- 一日平均利用者数3,000人以上のバスターミナルについて、原則100%
- 上記以外についても、地域の実情に鑑み、可能な限りバリアフリー化
- 整備内容
- 段差の解消
- 視覚障がい者誘導用ブロック整備
- 障がい者対応型トイレ設置 など
車両等(鉄軌道車両)
- 目標(平成32年度末)
約70%(約36,400両) - 整備内容
段差の解消 など
車両等(バス車両)
- 目標(平成32年度末)
- 適用除外車両以外については、約70%
- 適用除外車両については、約25%
- 整備内容
- 適用除外車両以外については、ノンステップバスとする
- 適用除外車両については、リフト付きバスまたはスロープ付きバスとする
車両等(タクシー)
- 目標(平成32年度末)
約28,000台 - 整備内容
福祉タクシーの導入
道路
- 目標(平成32年度末)
生活関連経路を構成する主要な道路について原則100% - 整備内容
段差の解消など
都市公園(園路・広場(ただし広場については、特定公園施設であるものに限る)
- 目標(平成32年度末)
約60% - 整備内容
段差の解消など
都市公園(駐車場)
- 目標(平成32年度末)
約60% - 整備内容
段差の解消など
都市公園(便所)
- 目標(平成32年度末)
約45% - 整備内容
段差の解消など
信号機等
- 目標(平成32年度末)
主要な生活関連経路の信号機等について、原則100% - 整備内容
- 音響信号機、高齢者等感応信号機等の信号機の設置
- 横断歩道であることを表示する道路標識の設置 など
4 関連する条例・計画
(1)障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下「障害者差別解消法」という)は、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成25年6月に制定されました。この法律では、「不当な差別的取扱い」を禁止し、「合理的配慮の提供」を求めているほか、「対応要領」「対応指針」の策定についても規定しています。
「不当な差別的取扱いの禁止」とは
この法律では、国・都道府県・市町村などの行政機関や事業者が、障がいのある人に対して、正当な理由なく、障がいを理由として差別することを禁止しています。これを「不当な差別的取扱いの禁止」といいます。
「合理的配慮の提供」とは
この法律では、国・都道府県・市町村などの行政機関や事業者に対して、障がいのある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに、負担が重過ぎない範囲で対応すること(事業者に対しては、対応に努めること)を求めています。これを「合理的配慮の提供」といいます。この合理的配慮には、障がい者等の利用を想定して事前に行われる建築物のバリアフリー化も含まれます。
「対応要領」とは
国・都道府県・市町村などは、それぞれの行政機関で働く人が適切に対応するために、不当な差別的取扱いや合理的配慮の具体例を盛り込んだ「対応要領」を定めることとされています(都道府県や市町村などについては、定めることに努めることとされています)。
本市においても、障害者差別解消法の規定に基づき、障がいを理由とする差別の解消に関して職員が適切に対応できるよう、平成28年2月に「伊勢市障がいを理由とする差別の解消の推進に関する職員対応要領」を策定・公表しました。
「対応指針」とは
事業を所管する国の役所は、事業者が適切に対応できるようにするため、不当な差別的取扱いや合理的配慮の具体例を盛り込んだ「対応指針」を定めることとされています。事業者は「対応指針」を参考にして、障がい者差別の解消に向けて自主的に取組むことが期待されています。事業者が法律に反する行為をくり返し、自主的な改善を期待することが困難な場合などには、国の役所に報告を求められたり、注意されたりすることがあります。
(2)三重県の条例・計画
三重県ユニバーサルデザインのまちづくり推進条例
平成12年に全面施行された「三重県ユニバーサルデザインのまちづくり推進条例 」(以下、「UD条例」という)によって、多くの人が利用する建築物や公共交通機関の施設、道路、公園を新築等する場合には、条例に定める整備基準を遵守し、事前にその計画について知事(一部地域は市長)と協議を行わなければならないことが定められています。
(三重県ユニバーサルデザインのまちづくり推進条例は、平成24年に『三重県バリアフリーのまちづくり推進条例』から改称されました。)
第3次三重県ユニバーサルデザインのまちづくり推進計画(2015‐2018)
本計画は、UD条例第8条に基づくもので、第1次計画(2007‐2010)、第2次計画(2011‐2014)に続くものとして、平成27年3月に策定されました。ユニバーサルデザインに関する施策を総合的に実施するため、3つの施策体系に沿って事業を実施することとしており、それぞれの施策について取組方向と個別目標が掲げられています。
図:第3次三重県ユニバーサルデザインのまちづくり推進計画の概要
(3)市の上位計画・関連計画
(1)上位計画
第2次伊勢市総合計画
伊勢市のまちづくりの基本理念を明らかにするとともに、その理念に基づく姿勢運営のあり方を示すものです。
「伊勢市の取組方針」として、市の課題の解決に向け、「命」「心」「暮らし」「誇りと調和」「自立と連携」という5つのキーワードを心にとどめ、それぞれの取組を進め、子どもたちの笑顔があふれ、お年寄りが幸せな老後を暮らせるまちづくりを目指します。
取組方針 『「心」 やさしさと感謝の気持ちを継承するまちづくり』
市民それぞれのライフステージに応じ手を差し伸べ、またそこに住む人たちが助け合い、とりわけ子どもや高齢者、障がい者など社会的弱者がやさしさに包まれて住み続けられるまちづくりを進めます。
伊勢を訪れる人たちに対して、感謝の気持ちと“おもてなし”の心を持ってお迎えする古からの伊勢の心を次世代に引き継ぎます。
(2)主な関連計画
伊勢市都市マスタープラン全体構想 バージョン2.0
「市町村の都市計画に関する基本的な方針」となるもので、長期的な視点から都市づくりの理念と目標、都市骨格と土地利用の基本的な方針などを示し、都市づくり・まちづくりの総合的な指針とすることを目的としています。
都市づくりの目標 「多様化する日常生活を支え快適に暮らせる都市」
あらゆる世代の人々がいきいきと快適に暮らせるよう、多様化する地域活動、社会活動を、福祉、教育、健康、文化、スポーツなど様々な面から支援し、市民の多様な日常生活を支える都市をつくります。
伊勢市地域福祉計画
「地域の助け合いによる福祉(地域福祉)」を推進するために、人と人とのつながりを基本として、「顔の見える関係づくり」、「ともに生きる社会づくり」を目指すための「理念」と「仕組み」をつくる計画です。
基本目標 「安心・安全のまちづくり」
安心して住み、外出できる環境づくり
伊勢市観光基本計画
神宮式年遷宮が執り行われる20年の周期で生まれ変わり、にぎわいを生み出す町「伊勢」。各種調査等から浮かび上がった課題を解決するために、今なすべきことを示した計画です。
基本目標 「笑顔で迎える受入基盤・環境の整備」
多様化する観光ニーズへの対応を十分に図り、全ての人が快適に過ごせる空間づくりを目指すため、関連施設のソフト面などでのバリアフリーに努めます。
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